メノルカ島、7日目

8月25日、土曜日。(実際の更新日は2012年12月2日)

3ヶ月前の記憶を辿りながら記述していく。これだけ過去の事になると記憶も曖昧になっている。ということで鮮明に覚えていることだけにフォーカスして、そこに間違えのないディテールを加えていくようにしよう。これだけ期間を置くと逆に印象的で重要だったことだけがふるいに掛けられたようでいいかもしれない。24日の記事を読みながら、25日の写真アルバムを見ながら、その翌日の出来事に迫りたい。

CIUTADELLA
CALA EN PORTERの街からバスに乗ってMAOへ。MAOから長距離バスに乗ること1時間。島の最西端に位置するCIUTADELLAに向かった。雲1つない快晴、タンクトップに麦わら帽子、灼熱の太陽は熱いことは無論、サングラスを掛けても眩しく目がしっかりとあけられない。濃い地中海ブルーの海。岩の海岸には白い豪邸と、豪華なプライベートヨットが並ぶ。海辺から街の中心に向かう。カテドラルがあり多くの観光客で溢れている。ショッピング街も賑わっており、みな夏休みを満喫中だ。

僕の目当ては街ではなく、町外れにあるQUARRY / 石切り場だった。SANDSTONE / 砂岩がとれる巨大な石切り場で、今現在も採石されているものの、一部がアート展示や旧石切場の展示を目的として一般公開されている。街のタクシー乗り場から、10分ほど郊外に出て倉庫や工場らしきがある地帯に到着。誰もいない。本当にこんなところに一般公開されている石切り場があるのかと不安に思うほど、閑散として寂しい。しかし太陽があまりにサンサンとしているので楽観的である。

あった。LITHICAという看板を発見した。エントランスだ。職員の女性が1人いてチケットを購入し、石切り場に入る。女性は「あら、こんな時に珍しい」という感じで驚いていた。こんな暑い日に石切り場に来る人なんて本来いないからだ。現に、僕一人だけだった。閉まる時間が迫っていたので、「僕がもどってきたら、タクシーの手配してもらえますか。」とお願いして、「もちろん」の返事をもらう。これで安心して観られる。

[:W640]
石切場の状態。切りだされ方が新しい方の石切り場と比べると荒々しい。恐らく切り出しする機械類の技術が発展したおかげで、切り出し面がスムーズになったのではなかろうか。面だけでなく、掘り出す深さも新しい方のほうが深い。より深く、美しく切り出せるようになったのか。粗い方の空間もいい。

何を見たかというと、ただの石の塊である。ただ地面は数十メートル深く掘り下げられ、普段は意識されない、地面のどっしりとした物量感が現れていて、通常の風景から逸したものを体験できる。そもそもここに来てみよう、と思ったのは EDWARD BURTYNSKYの写真集「QUARRIES」を持っていたからで、想像していたものそのものを見ることができた。彼は工業的ランドスケープの写真をシリーズ化している。彫り込まれた深い部分まで降りていくと気温は下がり、涼しくなる。写真で感じられた空気だ。囲まれひんやりとして静寂そのもの。生き物もいなければ植物もほとんど見当たらない、無機物の世界だ。ひんやりとはいったものの、このQUERRIESが砂岩であるからか、視覚的なWARMTHも感じる。季節が夏であるというのも関係するだろうが、昔行ったバレンシアや北モロッコでみられる色だ。
ここから切りだされた石は、板や塊となって搬送され、様々な寸法に変化して世界中のどこかしらに存在するキッチンや暖炉、あるいは彫刻になったり、オーナメントとして使われる、、このシークエンスを建築家として知らなければならない。ただの石だが、それがどういう所からやって来て、どう建築家の手中でリオーガナイズされる(する)のか。建築の材料はすべてそのようなオリジンがあるので、きちんとそのオリジンを空間として知っておくべきだ、、と思う。
それにしても本当に誰もいない。働いている人さえいない、受付の女性1人を除いて。1人なのでまあ、何をしてもいいだろうと思って、なかなか衝撃的な空間だから記念撮影でもしようかと考えつく。石の台座があったので、そこにNIKONを置いて記念撮影をとる。2人映り込んだけれども、心霊ナントカではない、ちゃんとパソコンでいじって増やした。虚しかったので少し賑やかにしてみた。

受付に戻ると、車が1台去ろうとしていた。「まずい!!」と直感して追い掛け、女性を止める。「あのお、タクシーをっていったんだけど!!」と呼び戻すとあ、ごめん、忘れてたと一言。スパニッシュでよろしい。しかしゲートも閉まっていたので完全に僕の事を忘れていたのだ。危ない、ここで取り残されたら天日干しミイラになって展示されてしまう。女性がタクシー会社に連絡してくれたので、しばらく道路の脇に腰掛けてタクシーを待つ。冷房の効いたタクシーがやってくる。救助してもらい、センターへ。

港に近いところのカフェテラスで冷たいジュースを飲みながら、スパニッシュタパスをいただく。写真はないのだけれども、何を食べたか思い出そうとする。するとナスに肉と野菜の詰物をしてオーブンで焼いたものがでてきたのを思い出した。すごい、きちんと覚えているものだな。後は地元特性チョリソーを焼いたものだった。

バス停で帰りの長距離バスを待ち、1時間ほどの乗車でアパートに帰宅。1日よく動いた、、忘れたけどきっとそう思ったに違いない。